忘れられた花園(上・下)

[翻訳ミステリー大賞勝手にレビュー(2011年度)]
3作品読み終わりました。読んだのは3月頭でしたが、ブログを書くのが遅いわたし……。

忘れられた花園 上

忘れられた花園 上

忘れられた花園 下

忘れられた花園 下

著者のケイト・モートンはオーストラリア出身。渡英してロンドンのトリニティ・カレッジや王立演劇学校で学び、30歳を迎えた2006年、『リヴァントン館』でデビュー。

リヴァトン館

リヴァトン館

本作は彼女の2作目の小説です。

2005年のオーストラリア、ブリスベンカサンドラは祖母ネルから思いもよらない遺産を受け継いだ。はるかかなたのイギリスはコーンウォールにあるコテージ、そして、イライザ・メイクピースという作家の手によるお伽噺。単身コーンウォールに飛んだカサンドラは、4歳のときにトランクひとつの荷物とともにオーストラリアにやって来たネルの出生の秘密、コテージの所有者だったマウントラチェット家の栄光と没落をたどる。

昨日エリザベス女王の即位60年のスピーチを聴き、イギリス連邦の絆とそこに住む人々の誇り、連邦の統治者であるエリザベス女王の圧倒的な存在感をあらためて感じました。距離にして日本よりも遠いイギリスとオーストラリア。『忘れられた花園』は、そんなイギリス連邦のスケールの大きさとともに、主要キャラクターである4人の女性の生きざまを細やかに描きあげています。

これからお読みになる方は、下巻で綴られるブラックハーストの庭園の描写をぜひともお楽しみください。じつは“庭園もの”というジャンルにあまり関心がなかったのですが、本書で思いっきり開眼してしまいました。

随所に挿入されるお伽噺、祖母から突然贈られたイギリスのコテージ、しかもそこには『秘密の花園』を彷彿とさせる英国式庭園が広がっている――と、海外の少女小説愛読者にはたまらないアイテム目白押しの作品。前回読んだ『夜の真義を』とほぼ同時期のイギリスが舞台ですが、あちらが“男のロマン”なら、こちらは“永遠の乙女心をくすぐる謎解きの妙”とでも申しましょうか。卑近な言葉を使えば、女子力満点ロマン、これに尽きます。

どちらかというとハードなミステリ好きのわたしが思わず転んでしまうほどの魅力をたたえた作品です。3作読んだ中ではこれが一番でしょうか。ただ、残された2作も昨年のミステリ関連の賞で上位を独占した名作。既読の『犯罪』は最後にご紹介するとして、次は『二流小説家』を。

夜の真義を

二作目も大著です。

夜の真義を

夜の真義を

時はヴィクトリア朝のロンドン、ひとりの男が復讐に立ち上がった。主人公、エドワード・クライヴァーは、学友フィーヴァス・ドーントの策略でイートン校を去る。のちにエドワードは、自分が名門タンザー家の嫡子であり、事情により継母に育てられていたことを知る。嫡男を失ったタンザー家は、やがて遠縁のドーントが跡を継ぐことになる。はたしてエドワードは汚名を雪ぎ、嫡子として認められるのだろうか――

というおはなし。

子どもの頃、親からしかられ(きっと私はここの子じゃないからあんなにしかられたのよ。そう、ほんとうならお屋敷に住んで、名門校に通う大金持ちのお嬢様。それで、それで……)みたいな妄想を描いたこと、だれでも一度はあるでしょう。ふつうならそれで終わってしまう妄想?を、著者は当時のデータを綿密に調べ上げ、壮大なゴシック・ロマン(ノアール?)に仕上げています。その情報量は、手記を発見した学者の注釈というかたちで反映させているため、物語のリアリティも増すというもの。

文章もあえて漢字を多用し、重厚な雰囲気が出るように工夫されています。

ただ、2011年はこちらも出版されていて、どうしても比較してしまうんですよね。

最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件

最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件

事実は小説より奇なり。ノンフィクションでここまで面白い話があるとなると、軍配はおのずとこちらに上がってしまうのです、わたし的に。

アンダー・ザ・ドーム(下)

(承前)
さて下巻へ。
各巻700ページの大著ですので、ページ数として半分に切ってあるはずなのに、上巻は話が盛り上がってきたところで終わります。偶然とはいえ、さすがキングだなーと。

下巻は正直、精神的に堪えます。“ドーム”で外界から遮断されて数日が経過したチェスターズミル。水と食料とエネルギー、空気までもが減っていきます。偶発的事件が引き金となって起こる大殺戮、仲間割れもあれば愚かな暴行も。町を牛耳るビッグ・ジム・レニーは、これでもかというほどの生命力でラスト近くまで主人公グループを追い詰めます。古いキングファンとしては、クージョやミザリーの執念? を思い出しました。

「ドーム」を作りしものの正体はとても概念的に感じられ、なんというか、まだ自分の中で整理できません。言いたいことはとてもわかるんですけど、びしっとひと言では言い表せない。

久々のキング(しかも超長編)を堪能しました。ページターナーは健在です。

アンダー・ザ・ドーム(上)

翻訳ミステリー大賞シンジケートというサイトでは、年に一度、フィクション訳者が前年度のすぐれた作品を選んでいます。現在のわたしのステータスはミステリ訳者としてとても微妙な立ち位置にあるため、このブログで勝手にレビューを書いて、候補作から勝手に1票投じてみようと思います。

第1回は、これ。

アンダー・ザ・ドーム 上

アンダー・ザ・ドーム 上

全〜巻という超大著が続くようになってからすっかりごぶさたになったスティーヴン・キングを久しぶりに読みました。上巻だけで690ページ、しかも2段組、おまけに字が小さい……それだけで去年挫折した本書に再挑戦です。

確かに長い――でも、読み始めると途中で本を閉じることができません。文章のテンポがよくて読みやすい上、章立てが細かいのもてきぱき読める助けになっているかも。キングおなじみの「犬」と「子ども」の描写は今回も秀逸。物語の要所にうまく配置されています。

しかし驚いたのはドームの大きさです。「ドーム」というとついつい野球のアレを頭に思い浮かべてしまうのですが、小さいとはいえ町ひとつをすっぽりと覆う広さ。そして、ドームの縦方向の距離感は想像を大きく上回っていました。まるで巨大な温室に包まれたような状態で、気候ははたしてどんな変化をきたすのだろう(酸欠もあり?)……。上巻ですでにかなりの死傷者が出ており、町がこれからどんな恐怖にさいなまれていくのか。さて、下巻に入っていきませう。

まさかの熱中症

原発が止まっているから節電せよ」的なご時世ですが、体調を崩してまで国の不手際をかばい、見知らぬだれかの利権を守りたいとは思わない模範的非国民ですので、仕事中、エアコンつけまくりです。自宅で仕事をしているから、「なんだこの家、朝からがんがんエアコンつけて!」と、ご近所のひんしゅくを買いまくっているかもしれませんが、そういうときはどうぞクレームを。ここは住居でございます、ただし、二階は翻訳者二名の仕事部屋ですので。一階のリビングで資料の映画を観ることもありますし、良質な睡眠を取るため、寝室も快適温度をキープしております。

しかし!

目と鼻の先の練馬区で37℃を記録した8月18日の明け方、あの予感で目が覚めました。

脚が……つる……。

眠っている間にこむら返りを起こすと、寸前に目覚めませんか? 人間ってよくできてると思います。ぎゃあああっ! と叫びたくなるのを必死でこらえ、震える手でベッドサイドの水筒(夜中に脱水症状を起こしたとき用に常備)をつかもうとしても、の、伸びない。

そこで手にしたのが枕元のiPod TouchGoogleを立ち上げて「こむら返り 治療」で検索しました。ここまで来ると職業病だなこりゃ。

見つけたサイトに書いてあるとおり、脚のストレッチをして、ふたたびつりそうになるのを必死にこらえながら匍匐前進で身体を起こし、ようやく水筒の水を飲みました。あとはばったり。

翌朝、あらためてデスクトップでこむら返りの原因を調べてみました。やっぱり熱中症だったみたいです。このサイトによると、

【従来定義】
熱痙攣(熱性筋攣縮、熱性こむらがえり)[heat cramps]
熱失神[heat syncope]・日射病[sun stroke]
【新定義】熱中症I度

だそうです。ゆうべは「熱性こむらがえり」を起こし、その後「熱失神」で意識を失ったということか。

いやあ、熱中症なんてどこか別の世界の出来事だとばかり思っていましたが、こんなに突然発症するもんなんですね。しかも寝ている間に。

で、18日はずっと不調で寝ていました。おそるべし熱中症。みなさんも体力を過信せず、水分補給と暑さを変にガマンすることなく、今年の夏を乗り切りましょう(と書いている8月20日は最高気温30℃に届かぬ、肌寒い一日でありました)

はじめましてのご挨拶

こんにちは。売れない翻訳屋のGravity_Heavenです。あえてTwitter IDと同じタイトルのブログを作ってみました。140文字では語れないこと、140文字でつぶやくとうざいこと、だらだらと長い本や映画、漫画、テレビの感想を書いていこうかと思います。

まず、よく聞かれる“Gravity_Heaven”とはなんぞや? という件。

最初は加瀬亮の主演映画「重力ピエロ」と「スクラップヘブン」を合体させて作ったのですが、使っているうちに、Gravityには「まじめ」という意味があるんだなあ、「真面目の楽園」って自分らしくないなあ、いっそのことGravity_Havenにして、「真面目なことからの逃避場」にしてもよかったかなーとか。

訳書はいま2冊あります。

ツール・ド・ランス

ツール・ド・ランス

ブルース・スプリングスティーン―ソングライターとして生きるには

ブルース・スプリングスティーン―ソングライターとして生きるには

2冊目が出てからもうすぐ1年ですねえ、そろそろ次のアレをナニしないと。