深い疵
さいきんドイツ語がマイブーム。NHKのドイツ語講座(テレビ・ラジオ両方)、東京外大とタフツ大学によるウェブ語学講座と、ちょっと手を広げすぎでね? ぐらいにはまっていますが、まだまだまだ初心者です。
こんなことになったのは、酒寄先生、あなたのせいよ……というのは冗談ですが、楽しみにしていたこの本にようやくたどり着けました。発売日に買ったクセに。
- 作者: ネレ・ノイハウス,酒寄進一
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2012/06/21
- メディア: 文庫
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【あらすじ】
ホロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人が射殺された。凶器は第二次大戦期の拳銃で、現場には「16145」の数字が残されていた。司法解剖の結果、被害者がナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が判明する。そして第二、第三の殺人が発生。被害者の過去を探り、犯行に及んだのは何者なのか。(東京創元社ウェブサイトより)
何者なのか……。
えーーーーっ!
って、人です。
――では感想になりませんので、ネタバレにならない程度に説明を。物語の中核を形成するのが、フォン・ツァイドリッツ=ライエンブルク家とカルテンゼー家。カルテンゼー家に嫁ぎ、大企業のトップに君臨するフォン・ツァイドリッツ=ライエンブルク家の娘、ヴェーラには3人の子どもがいます。長男は美術史家、次男が家業を継いで経営をまかされ、末娘は政界に。絵に描いたような上流階級の一族ですが、それゆえにゆがんだ関係も生まれるわけで。隠し子もいれば悪い仲間もいる、カルテンゼー家に恨みを持つ者もいれば、一家のスキャンダルで儲けようともくろむ人々も。
読んでいる間の脳内BGMは、これでした。作曲は大野雄二さんだったんですね、すっかり失念しておりました。
横溝正史ばりのもつれた人間模様を読み進めていくと、意外な事実にたどりつきます。そこが第一の「えーーーーーっ?」。
なんでなんで? とおどろき戸惑いつつ、さらに読んでいくと、あの人がアレで、この人がコレ――と、たたみかけるように真相があきらかになり、読者はふたたび「えーーーーーー?」最後に「お前かよ!」という人物が立ちはだかり、シリーズの主役であるピアとオリヴァー絶体絶命のピンチ! となるわけです。これをいちいち書いているとネタバレになるので、いいかげんな感想だとなじらないように。
本国ドイツではすでにシリーズ5作が出版されており、本作は第3弾にあたります。シリーズの女主人公ピアはバツイチ・アラフォーの刑事、恋も仕事も一生懸命!――と、海外ミステリでは俺的に食傷気味のキャラなのですが、彼女のプライベートがストーリーの前面に出てこないので嫌味なく読めました。ただ、元夫とどうして離婚したのか、あの現彼(あまりに女性にとって都合がよすぎて、かえって影が薄い)とはどうして知り合ったのかが気になります。本作を読んだかぎりでは元夫とのほうが馬が合うように思えてならないのです。この先よりを戻すのでしょうか?
と、今回も酒寄マジックに翻弄されました。ドイツミステリは英米・北欧とはひと味違った“えぐみ”みたいなものがありますね。本作もそうですが、第二次世界大戦から冷戦時代、東西分裂という歴史をたどるだけでも、ドイツという国は、たくさんのミステリが生まれる要素をはらんでいます。個人的には数十年前の東独が舞台のノアールが読みたいのですが、それはもうちょっとドイツ語を勉強して、自分で探すしかありませんね。よし、モチベーションが上がったぞ。
でも最後にひとこと。「おセンチ」は死語ではないでしょうか?